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高齢者に優しい糖尿病治療

-食事 運動 薬物療法を見直そう-

 

 山之内糖尿病予防研究所クリニカルデスク

    山之内国男

 

 我が国において65歳以上の人口比率は年々増加し、2013年には4人に1人の超高齢社会となりさらに年々増加している。そして2016年糖尿病が強く疑われる患者は一千万人に達すると推定された。私の糖尿病外来でも現在811名の患者さんで65歳以上は76%に達し、糖尿病治療も高齢者を第一に念頭に考えないといけない時代に突入していることを実感している。

超高齢社会の医療で大切なのは平均寿命をターゲットにするのではなくいかにして健康寿命を伸ばすことができるかを考えることであろう。これは糖尿病患者さんでも全く同じことが言える。すなわち糖尿病特有の合併症の他に介護が必要となるロコモ、脳血管障害、認知症、フレイルなどに対する対策を講じることが必要となる。また高齢者だからと言うことで近年、惰性(Clinical Inertia)でなんとなくこれまでの治療を続けてしまうという問題が提起されてきているが、高齢者ゆえの問題点を把握して積極的な取り組みが期待される。このような点から糖尿病治療の3本柱である食事 運動 薬物療法の以下の項目について検討した。

 

1.食事療法

 「栄養素&タンパク質摂取不足」

 高齢者にで不足しがちな栄養素は消費者庁の調査によるとタンパク質、カルシウム、ビタミン、食物繊維などが挙げられる。特に前2者はそれぞれサルコペニア、ロコモを引き起こす要因となりうる。私の外来での栄養調査でも高齢者では平均1日総エネルギーで約15%、たんぱく質で約15gの摂取不足であった。これらの対処法としては栄養のバランスに注意するとともに食事回数もできるだけ3食としその都度必要な栄養素を配分していかないと摂取不足解消は難しい。

 

2.運動療法

 「レジスタンス運動の重要性」

 60歳あたりを過ぎると急速に加齢性筋減弱症(サルコペニア)が生ずる。続いてフレイル(虚弱)の状態に進行し介護の世界に突入することになる。この予防としては下肢筋のレジスタンス運動が有効である。世界的に最近の運動指針には高齢者に対して筋トレ、バランス、ストレッチ運動が推奨され転倒、骨折、寝たきりの防止が優先されるようになった。特に高齢者糖尿病患者では強い有酸素運動ができなくてもこのような運動を中心とする治療が有効となる場合が多くなると考えられる。

 

3.薬物療法(経口薬)

 「HbA1cの下限とDPP-4阻害薬とBGが主体となる理由」

 2013年熊本宣言である条件下で初めて高齢者においてHbA1cの下限が設定された。これは低血糖のリスクを考慮してのものである(詳細は他誌参照)。その観点から糖尿病における薬物治療の基本的骨格はそれぞれの作用の面からDPP-4阻害薬、BG薬、SU薬の3本柱であるが、年々SU薬の処方数が減少し、DPP-4阻害薬が主流となってきている。又、グリニド(SU薬とは併用不可)、α-GI、ピオグリタゾンなどは個々の症例に応じて必要な場合に追加併用されるといった位置付けになろう。

 「SGLT2阻害薬の使用は慎重に」

強制糖排泄に伴う浸透圧利尿作用により高齢者では脱水・梗塞の危険も高く、発熱・下痢・嘔吐(シックデイ)の対応、特に女性では尿路感染・性器感染への注意が必要である。また血糖という代謝的指標が失われ、インスリン分泌不全の状態では知らないうちに体成分が崩壊する危険性がある。減量効果が期待されるが、長期では食べグセによると思われる体重減少の停滞がしばしば起こる。発売後すぐに種々の合併症に対して出された適正使用に関するRecommendation201468)では高齢者への投与に関して注意喚起が促された。

 

 

 

      春日井内科医会学術講演会

2018.5.19 ホテルプラザ勝川にて