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食事指導のポイントー管理栄養士がいない場合ー

medicina vol.45 no6:990-994 2008.

「実践! 糖尿病診療」 医学書院

山之内糖尿病予防研究所クリニカルデスク

              山之内国男

          

食事指導のポイント管理栄養士がいない場合

何をどのように教えるか? まずは理解しておくこと

 

ポ イ ン ト

摂取エネルギー量の違いは,主に表1(穀物)と表3(魚貝,肉卵,大豆)に反映される.

コントロール悪化の原因は,果物,菓子,ドリンク,お酒である.特に果糖には注意しよう.

外来での指導をスムーズに実施するには,食事記録,アンケート,体重表などを利用する.

 

はじめに:外来で血糖コントロール不良の患者にいくつかの質問をすると,食生活について当たり前のことが守られていないことが意外に多い.管理栄養士がいない場合でも,これらのコントロール悪化の原因を特定し,少しでも的確なアドバイスができれば,栄養指導としての成果が期待できるのではないだろうか.本稿では,外来診察時の医師による栄養指導の実践について私見を述べてみたい.

 

減量と血糖コントロール 

 糖尿病の食事療法は,減量と血糖コントロールという2つの視点から実施する必要がある.減量によりインスリン抵抗性が改善し,長期的な観点から血糖コントロールが改善することはいうまでもない.一方,食後の急激な血糖上昇はコントロール悪化につながりやすいので,避けなければならない.そのためには摂取エネルギーとともに食事内容のバランスや摂り方にも注意が必要となる.

■食品交換表の理解と食事内容の基本構成 『糖尿病食事療法のための食品交換表 第6版』(日本糖尿病学会 編)で栄養のバランス配分を1200kcalと1600kcalとで比較すると,表1(穀物)と表3(魚貝,肉卵,大豆)のみが異なっていることに気づく(表1)

これが1840kcalの場合でも表5(油脂)が2単位になることを除いて,他表は全く同じである.すなわち,表2(果物),表4(乳製品),表6(野菜),調味料は誰でもほぼ同じ量となる.したがって,ここを確認しておけば,あとは患者の摂取エネルギー量により表1の主食と表3のおかず(魚貝,肉卵,大豆)の量が決まるので,食品交換表を利用して患者に自分の量を把握してもらう.表5は日常で摂りすぎやすいものが多いのでチェックしておく.また,表6のきのこ,海藻,こんにゃくはエネルギー量がほぼゼロであることから,食事の際,うまく組み合わせれば,量的にもさらに満足感が得られるだろう.

血糖コントロールが乱れる原因 

 筆者の糖尿病外来患者334名において,2年間のHbA1cの月別平均をみると,毎年11月〜翌年3月まで有意に上昇していた1)問診から悪化の理由として,果物の摂り過ぎや12月の忘年会,お正月などが推定された.このように,血糖コントロールの悪化は日常生活に密着していることが多い.ほかの原因も含めて,血糖コントロール悪化の問題点を整理してみる.

■果物 野菜と同じように,いくら食べてもよいと考えている患者が多い.果糖を多く含み,糖尿病患者では血糖値が上昇しやすい.果物は1日1単位(80kcal)までで,目安は手掌に載る程度と説明している.干した果物は小さくても果糖が濃縮されていることから,つい食べ過ぎるので避ける.

■菓子 ケーキ(洋菓子)はいけないが,饅頭(和菓子)ならよいという誤解をする患者が多い.ケーキはバターなどの脂肪分が含まれ,摂取エネルギー量が大きくなる.例えば,手掌に載る程度のショートケーキ(75g)は3単位前後に相当する.饅頭は脂肪分は少なくても,糖分を多く含む.どちらも食品交換表では嗜好食品(原則的には糖尿病には好ましくない食品)として扱われている.

■野菜ジュース,栄養ドリンク,スポーツ飲料 多くの患者は,これらの飲料をビタミン,アミノ酸といった栄養の補充ができ,体力や血糖コントロールも回復すると考えて,安易に摂取しがちである.実際は果汁,果糖ブドウ糖液糖(トウモロコシから製造),ショ糖(砂糖)などがかなり含まれ,コントロールを悪化させる.缶やビンに成分表が貼ってあるので確認するよう指導する(図1).甘い飲み物は100ml当たり40kcalが一般的であるが,全体量が500mlだと50g(200kcal)の糖負荷に相当する.また,表示法で「カロリーオフ」,「カロリーひかえめ」,「低カロリー」,「ダイエット」などは「100ml当たり20kcal未満を示す」という>ことなので2),それなりのエネルギーをもつことを理解しておく.また,「ノンシュガー」は砂糖や糖類が含まれていないが,それ以外の低甘味料の糖アルコール〔キシリトール,ソルビトール,マルチトール(還元麦芽糖),エリスリトールなどの総称〕を使用しており,血糖が上がることもある.エネルギーとは別の視点からの表示なので,注意が必要である.

■アルコール アルコールは,代謝的にはアルコールデヒドロゲナーゼにより酸化される.このとき生じたNADH(dihydronicotinamide adenine denucleotide)という補酵素(NADH/NAD比)が増加すると,脂肪酸の酸化やクエン酸回路の活性が抑制され,脂肪酸や中性脂肪の合成が進み,糖代謝が円滑に回らなくなる.その結果,脂肪肝を助長し,血糖コントロールも悪化する.また,食欲が亢進したり,気分が大きくなり,食生活が乱れる原因となる.少量ならば血行がよくなり,ストレス解消などの効果もあろう.当然,これらは個々の患者の摂取量に依存するので,適量がどこまでかは主治医の判断ということになる.

■正月,宴会,旅行 日常と異なる行動パターンとなり お菓子を食べたりお酒を飲む機会も増える.他人に糖尿病であることをきちんと告げ,勧められても断る勇気をもつことを理解してもらう.

血糖値の上昇しやすい食品

■グリセミック指数(GI) グリセミック指数(glycemic index:GI)は炭水化物を多く含む食品で,炭水化物50g相当の量を食べ,2時間までの血糖上昇面積(ブドウ糖を100として)を比較したものである.実際にはこれらの食品を単独で摂取することは少ないので,あくまでもバーチャルな指標ではあるが,血糖の上昇しやすさの目安にはなるであろう.もちろん,空腹時に単独で(例えば3時の間食として)摂取すれば,この指標が現実のものとなることはいうまでもない.

 いろいろな機関でGIが提唱されているが,日本糖尿病学会としての一定の算出方法やガイドラインがあるわけではなく,参考値として取り扱うものであろう.例えば,ベークトポテト(GI:95),最高級パン(GI:95),餅(GI : 80)など,日常的によくみられる食品でも,単独で摂取すると血糖を上昇させやすいことがわかる.食事は,やはり主食に野菜やおかずなど,種々の食品を併せてバランスをとって食べることが大切であることが理解できる.

■果糖(フルクトース) ここで注意すべきは,砂糖(ブドウ糖+果糖)(GI:75)や,ぶどう(GI:65)といった果糖を含む食品が意外にGIで低い値を示すことである.これはブドウ糖と果糖(フルクトース)の代謝経路の違いからくるものである.果糖は吸収されると肝(一部腸)でフルクトキナーゼによりリン酸化され利用される.この酵素活性はインスリンに依存しないため,糖尿病患者でも血中からは正常の速度で消失する.

 しかしながら,その後の運命は,インスリン欠乏状態ではグリセルアルデヒド‐3‐リン酸から糖新生で血糖が上昇する方向へ向かう.インスリン存在下では解糖系またはグリセロリン酸から中性脂肪の合成へ利用される3).また,インスリン欠乏度が異なる個々の糖尿病患者の血糖上昇をGIから推定できるものではないので,果糖による血糖上昇はこれに示されるより,さらに増幅されたものとなる可能性を念頭に入れておかなければならない.

 

外来での実施法—食事記録アンケート,体重表などの利用 

 患者の栄養指導をどのように実施するかは,それぞれの外来診療スタイルに合わせた工夫が必要である.特にコントロールが悪化したときには,最近の食生活や行動などの変化について詳しく問診する必要があろう.診察時間も限られているので,あらかじめ診察前に日常生活での変化,食生活の問題点,果物やお菓子の摂取状況をアンケート形式で回答してもらうのも一法である.その際,血糖コントロールと減量は必ずしも一致しない.減量に関しては,長期的にみていく必要がある.図2は筆者が減量を必要とする患者に動機づけとして使用している体重表である.数カ月分の体重変化と患者自身が決めた目標達成欄が同一ページに記載でき,経過が把握しやすい.

文 献

1)山之内国男:糖尿病外来で実施,継続容易な運動療法—自転車運動の実施状況と効果.Med Pract 24:25‐26,2007

2)栄養表示基準に基づく栄養成分表示,厚生労働省,2005

3)上代淑人(監訳):ハーパー生化学,原著20版,pp181‐209,丸善,1986

表1

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図1

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図2

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