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 岐阜県医師会主催の健康づくりスポーツフォーラムで渡邉郁雄先生から基調講演のご依頼を頂きました。土曜日の午後、丁度午前中は新鵜沼ケアークリニックの診察日だったので終わってから快晴の中、関まで車を走らせました。沢山の一般の皆様に聴講しに来て頂き盛り上げて頂きました。ありがとうございました。抄録提出用の講演の内容を掲載させて頂きます。

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加齢もメタボも吹っ飛ばそう

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「加齢もメタボも吹っ飛ばそう-生活のリズムを作る運動で-」 

 山之内糖尿病予防研究所クリニカルデスク

        山之内国男

 きょうの私の講演のテーマは「加齢もメタボも吹っ飛ばそう-生活のリズムを作る運動で-」です。本来ですと運動というと何かスポーツ競技を思い浮かべるわけですが、健康の為の日頃の身体活動性といった意味でお話しさせていただきます。

メタボリックシンドロームとは

 メタボといえば、今では日本中だれでも知っている言葉ですが、この発信は恐らく2006年5月厚生労働省のメタボリックシンドロームに関する調査結果が新聞に掲載された時にさかのぼります。メタボリック1,300万人、中高年男性2人に1人、予備軍1400万人と見出しを飾りました。この病態のもとになるのは、内臓脂肪です。まず内臓脂肪について説明をさせていただきます。これは、おへその位置で腹部を輪切りにした状態をみたCTの写真です。この黒く見える部分が脂肪です。ですから、この腹壁の中にある黒い部分が内臓脂肪で外側が皮下脂肪と言うことになります。脂肪組織は、以前は余剰エネルギーを蓄えるだけの役割だと思われていたのですが、内臓脂肪が過剰になると悪いホルモンを分泌し、それが高血圧、高脂血症、糖尿病を引き起こすことがわかってきました。このような病的肥満を内臓脂肪型肥満といい腹囲でその存在を推定することができます。現在の学会の統一基準ではウエスト周囲径が男性で85cm、女性で90cm以上を「要注意」とし、その中で 血清脂質異常(トリグリセリド値150mg/dL以上、またはHDLコレステロール値40mg/dL未満) 血圧高値(最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上) 高血糖(空腹時血糖値110mg/dL以上)の3項目のうち2つ以上を有する場合をメタボリックシンドロームと診断する、と規定しています。それぞれ一つ一つでは治療の必要がないのですが、2つ以上存在すると極めて動脈硬化になり易いことがわかりました。ですから、このような基準を決めて早期に発見し食事運動等で予防、治療しましょうということになった訳です。

 スライド下のCTを見ていただくと、同じ腹囲ですが、腹腔内の脂肪が非常に少なく、皮下脂肪が多いことがわかります。これは腹囲は大きくても内臓脂肪が少ないと言うことになり病的とは言えません。このようなパターンは運動をしている人に多いのです。典型的なケースは太っているけれども、運動しているお相撲さんと言うことになるでしょうか。すなわち運動すれば内臓脂肪がつきにくいともいえるでしょう。ですから、内臓脂肪を減らすには食事だけでなく運動を併用することが大切であるといえます。

私達は肥満になり易いから生き延びた

 さて、本来肥満というのは、今でこそ目の敵のように言われていますが、実は飢餓への備えということで、肥満であったがゆえに生き延びられたということが言えるでしょう。そもそも、原始の時代マンモスを1頭倒すと10人が半年間、十分食べていくことができたそうですが、捕まえようとしても、逃げ足が早い「ゾウ」ということでなかなかうまくいかない。その間、生き延びるためには体にエネルギーを蓄えておく、つまり肥満であることが必要だったわけです。

 ですから、肥満になりやすい遺伝子を持った人間、部族、それが今生き残っていると考えられます。私たちは、どちらかというと気を抜けば肥満になるという、素質を持っているということです。そして、その肥満、メタボの延長線上にさらに重大な病気である糖尿病が存在します。糖尿病は年々増加し2007年国民健康・栄養調査によると「糖尿病が強く疑われる人」は890万人に達しています。男性は60歳を超えると5人に1人、女性の場合は、男性の約半分で9人に1人が糖尿病と推定されます。しかも糖尿病の中の約50%が治療をうけずに放置状態になっているようで、そういう人たちは、知らないうちに合併症が進んで大変なことになってからようやく受診するということになります。メタボにしても糖尿病にしても早期に発見し、大事にならないうちに治療すると言うことが国民の健康、あるいは医療費の節約と言う意味で大切なことだと思われます。

減量は食事と運動で

 先ほどの調査で肥満があると糖尿病の頻度が男女とも一気に増え2人に1人ということです。この肥満の治療についてお話を進めていきたいと思います。「健康日本21」のスローガンは1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後に薬。糖尿病治療の一般に言われるスローガンは、1に食事、2に運動、3、4がなくて5に薬です。共通していることは、どちらも治療予防には運動と食事が非常に大切であると言うことになります。

 さてこのイラストは、だれかに似ていると思いませんか。答えは、松村邦弘さんです。2006年の10月神戸で開催され肥満学会の公開講座で松村さんに特別ゲストとして出席していただきました。その時の打ち合わせ中の写真です。向こうが私、こちらが松村さんです。松村さんはこの6カ月で50キロの減量に成功されました。その秘訣をお話しして頂いた訳です。 朝御飯はきちんと食べ、ドカ食いをしないで、夜はしっかり歩き、水中歩行などの運動を取り入れたと言うことです。残念なことにその後のマラソンの最中に心筋梗塞を起こされましたが以後テレビで拝見させて頂くとさらに減量された気がします。心筋梗塞という大変な経験をされ、さらに真剣に減量に取り組まれたのではないでしょうか。

とにかくあきらめずにやり続けることが大切であると言うことでしょうか。 

運動は2種類に分類される

 つぎに減量の基本となる運動にはどんな種類があるのか考えて見たいと思います。一般的に2種類の運動があります。1つはレジスタンス運動です。ちょっと聞きなれない言葉ですが、これは重力やおもりを利用して筋力をつける運動です。といっても重量挙げの様なハードなものではなく、軽いおもり、ゴムチューブ、水中歩行のようななんらかの抵抗を利用する運動です。足腰の筋力をつけ バランス感覚や身体活動性を維持できるような役割と、筋量増加による基礎代謝の増大により太りにくい体質を作ると言う役割もあります。一方、有酸素運動は、全身を使う運動で、歩行やジョギングがあります。これは、心肺能力を高めることで持久力を向上させます。また糖代謝、脂質代謝など代謝改善効果もあります。レジスタンス運動は週に3〜4回、有酸素運動はなるべく毎日実施するのが有効と言うことです。なかでも水中歩行は、膝や足に負担がかからないので肥満者の運動に役立つし、高齢者ではさらに転倒などの自己防止にも役立ちます。欠点としてはプールと言う設備が必要であることでしょうか。私も、愛知医科大学で22年間、糖尿病臨床以外に研究分野では肥満糖尿病の運動療法を専門にしていました。

 

ちょうどこの写真の体育館の下に運動療育センターができたのが、私が40歳のときです。それから14年間センターにお世話になり運動療法の研究を続けられたのです。これらの写真は入院して減量に成功された方のトレーニング前後の退院時記念写真です。見ていただくとわかると思いますが、結構若い人で100キロ前後の超肥満の方もみえます。3カ月間入院して、入院食でしっかり運動すると必ずやせます。それに伴い色々な代謝的指標となるデータはすべて良くなります。やればやっただけよくなる。当たり前のことなんですね。ただ問題は、この女性の方に代表されるように、退院後の維持が難しいと言うことです。3カ月の入院で95kgから78kgの減量に成功されました。1年後にチェックを入れると、このように入院前よりかむしろ太ってしまったのです。 これをリバウンドといいます 。大切なことは日常生活の中でもきちっと減量が維持できているかどうかです。退院後のアンケート調査をしてみますと、退院後一年で50%の方が脱落しています。リバウンドの機序としては厳格な食事制限などで急にやせると基礎代謝などが落ちますので、その後で何らかの理由で食べ過ぎると前より太ってしまうということが考えられます。習慣的に食事と運動療法を持続するということがリバウンド防止で非常に大事なことになります。もとの生活に戻れば、もとの習慣に戻ってしまうということになるので、それを防止する工夫が大切になります。

運動継続の鍵 

 例えば歩数計をつけるとか、運動記録をつける、家族というか夫婦で一緒にやる、レクリエーションを取り入れる、運動施設へ行くのもいいかもしれません。

 成功した人をよく見てみますと、何らかの動機づけ、絶対やるぞという気力があります。私の糖尿病で肥満の患者さんで20kgの減量に成功し維持されている方がみえます。彼の場合は親戚で糖尿病合併症で透析になってしまい、足を切った人がいるので、自分は絶対同じことになりたくないと言う気持ちになり頑張れたと言います。それと、食事日誌をつけ運動は早朝散歩と通勤の自転車だけですが日常的に無理なくできること、習慣として続けることができたことが成功の鍵ではなかったでしょうか。また仲間で一緒に減量に取り組めた場合も成功し易い様です。この間も、テレビで減量の番組をやっていました。体重を毎日つけることは非常にいいことで(日本肥満学会編、肥満症治療ガイドラインにもグラフ化体重日記法が記載されています)、男性の方はつけている体重の上下する原因を分析し減量成功につながるそうですが、女性の方は失敗し易いと言うことでした。女性の場合、仲間とワイワイやるという特性でついつい一緒に食べてしまい失敗するそうです。しかしながら、その特性を生かして仲間と一緒に減量すると極めて成功率が高くなるそうです。おしゃべり仲間と一緒におしゃべりしながらの散歩で自然と有酸素運動となるし、体重をつけてお互いがグラフの上下をおしゃべり感覚で分析し合うのが成功の鍵のようです。仲間と一緒にというのも非常に有効だということです。

食事療法の落とし穴

 日常の問題に戻りますが、ついつい食べてしまうとどうなるかです。運動による消費エネルギーは頑張った割には意外と少ないのです。皆さん、30分も歩けば、結構汗ばんですごく運動したと思われるかもしれませんが、このスライドのように糖尿病の食品交換表では1単位、すなわち80キロカロリーにすぎません。御飯、茶わんに半分のカロリーです。

 例えば、よくある嗜好品を比べてみますと、缶ビール350mlが60分の歩行とほぼ同じエネルギーとなります。私は「アルコールたった1杯、歩けば1時間」という標語をつくりました。これは、「忘年会を無難に過ごそう」という糖尿病教室の標語集の一つにしています。これはショートケーキです。これは、女の方が好まれるものです。これで2時間分の歩行に相当します。ちなみに、アーモンドチョコレートは3時間に相当します。以下3つほど、減量に関する標語を選んでお見せしたいと思います。「超カロリー!町にあふれるコンビニ弁当」。コンビニ弁当を並べてみますと、どれも当たり前にある弁当ですが、から揚やハンバーグなど非常にカロリーが高いわけです。ちなみに、上からハンバーグエビフライ弁当1,200kcal、豚肉中華飯900kcal、ロースと白身フライ840kcalとなります。大体、中高年で1800〜2000kcalの食生活が普通とされていますが、1食当たり600kcal前後で牛乳と果物が加わると2000kcalぐらいになります。どれを見ても1.5〜2食分に近いカロリーになっています。

また、塩分も非常に多いということです。塩辛くて脂っぽいものは、避けるように選ぶ時に気をつけないといけないと思います。

 誰でもサラダは健康に非常にいいと思われるでしょうが、「ヘルシーな野菜サラダも、油脂をつければ高カロリー」ということです。このように何もつけなければ40カロリーだった野菜サラダも260カロリーとなります。なぜかというと、このコメント「、、、生ベーコン など様々な具材が入っていて、ちょっぴり辛味のあるマヨネーズが素材のおいしさを引きたてています。」 のように生ベーコン、マヨネーズ、など脂肪分が多いものが追加され一気に高カロリーとなるのです。確かにマヨネーズなど脂は味覚をよくし食欲を増します。さらに脂依存症というのがありますが、ラットに3日前に油だけを飲ませて飼育すると、水と油を入れるても油のほうを一生懸命飲むようになってしまいます。もちろん、甘いものも同じです。そうなるとやめられない。そして肥満から抜けられなくなって行くと言うことになります。お好み焼きとかたこ焼きに大抵マヨネーズをかけますね。そのマヨネーズは小さじ2杯で80kcalといいますけれども、非常にダイエットには危ない存在になるわけです。

 もう一つの標語は、「生きるために食べるが、食べるためだけに生きてはいない、人は皆」です。糖尿病で食事療法の指導をするともう一生おいしいものが食べられないと悲観する患者さんが多いのです。たくさん食べるだけがおいしい食べ方ではないし、自分の生き方とか、人生の目標をもう一度考えましょうとお話しします。さて本題に戻りたいと思います。

高齢化社会を迎え運動の目標も変化する

 もう一つの現実、問題点は、私が接している患者さんたちや社会を構成する年齢層が年々高くなっています。スライド左は、平成9年の糖尿病実態調査の結果です。それで、このピンクで表した部分が65歳以上ですが、65歳以上は38%です。私の患者さんで年齢別に統計をとってみますと、65歳以上は57%になります。また50歳以上は、90%となります。

 糖尿病実態調査に比し私の外来で若い人の割合が低いのは、若い人程受診せず放置している可能性があると思われます。ただ、これから私たちのような団塊の世代が、どんどん高齢化してくるとますますこういった傾向が強くなってきそうです。そうなると、健康の為には身体的に活動を高めるのが良いのですが、高齢のためになかなかできない事情も出てくる。つまり膝が痛い、腰が痛い、骨粗鬆症や骨折を起こし易い。そうすると、それが寝たきりにつながる。ますますいろいろな合併症、もちろんメタボも含めて出現し易い状況になってくると思われます。骨粗鬆症がいかに多いか、性別年齢別頻度をお示しします。ピンクが女性、青が男性ですが、50歳を超えると両方とも増えてきます。女性の方は閉経後、急激に増え男性のほぼ2倍の頻度となります。すなわち、女性ホルモンで今まで守られていた骨が急にもろくなってくるとも言えるわけですね。他に変形性膝関節症も身体活動を低下させる重要な原因となります。この発症要因の一つには運動不足というのがあります。この下肢の外側の筋肉というのは余り衰えにくいのですが、内側の筋は衰え易いと言われます。運動不足ではそれが助長され膝を支える部分にアンバランスが起きます。その結果、内側の軟骨がすり減り関節症を起こすことになります。さらに骨粗鬆症の一番起こる場所というと海綿骨で背骨は海綿骨から出来ています。従って背骨は圧迫骨折が起こり易くその結果、円背(猫背)になりさらにいろんな障害が起きやすくなるということです。膝とか腰が痛くて前屈みになるとより円背がひどくなってゆく訳です。つまり日常の生活の中で正しい姿勢が背骨の変形予防には大切だと思います。

自分の体に感じる症状は1位が腰痛、2位肩凝り

 自分の体に感じる症状を調査した結果(平16年国民生活基礎調査22万世帯)は1位が腰痛で、2位が肩凝りです。どちらも上に述べた姿勢に関係があるということです。65歳以上を超えると、20%が腰痛を訴えています。私の外来も、中高年が圧倒的に多いので、糖尿病の症状ではなく腰が痛い、膝が痛いという人が非常に多いと言う実態があります。従って、糖尿病外来でもこのような訴えに対応していく必要を感じています。

 そこで、腰痛の原因について簡単にまとめたものをまずお示しします。大きく分類して安静時に痛いのは内臓の病気、体動時に痛い場合は背骨の病気が疑われます。内臓の病気としては腎臓や尿管結石、大動脈瘤、婦人科の病気、がんの骨への転移などがあります。背骨の病気は若い人では椎間板ヘルニア、高齢者では腰部脊柱管狭窄症が最も頻度の高いものです。

腰部脊柱管狭窄症とは

 スライドは脊柱に関する基礎的事項です。脊柱は頭を支えるためにS字の様に湾曲し首と腰のところで少し前方に曲がっています。この辺の腰椎の4番目、5番目というところは一番荷重がかかるところです。椎骨が上下に重なり脊柱を形成します。そして中に頸から骨盤内に馬の尻尾のように分岐している馬尾神経まで脊髄神経の通る脊柱管を形成します。また椎骨の椎体の間にクッション役をする椎間板があります。腰椎では途中で足に行く神経を出すので、椎間板が突き出てこの部分を圧迫すると座骨神経痛などが起こるわけです。また馬尾神経を圧迫すれば排尿とか排便とかに関係あるので失禁などを起こしてくるわけです。

この基礎知識をもとに、例えば先ほど言った腰部脊柱管狭窄症は加齢で変性した椎間板が脊柱管の内部に突出しそこが狭窄します。若い人の椎間板ヘルニアは、椎間板の中身の柔らかい部分が飛び出すので、いずれ吸収し改善することが多いのですが、高齢者の脊柱管狭窄症は、変性して硬化した椎間板が突びでるので足の痛みとか、あるいは先ほど言った馬尾神経圧迫による排尿障害などが生じ、簡単には改善しないのです。

 ある調査で慢性の内科疾患にかかっている人の4人に1人は無症状でも腰部脊柱管狭窄症があるといいます。症状として最も多いのは長時間歩くとふくらはぎが痛くなり休むと痛みは消失する間欠跛行(かんけつはこう)と前かがみになると痛みは軽減するというものがあります。高齢だからあきらめ放置するのではなく症状があれば早めに専門医(整形など)を受診し、病態を把握したら最善を尽くすと言うことが大切です。そしてどうしてもだめなときには手術ということになります。

 そこで、以下高齢者の為の運動療法というのを考えてみたいと思います。持久力を高める、骨量をふやす、転倒を防ぐ、そのためには有酸素運動、レジスタンス運動の他に、ストレッチ、腹筋、背筋などの筋力トレーニングを組み合わせるのが良いと思います。これらの説明に入る前に少し休憩を入れます。以下の動画をご覧下さい。我が家の愛犬「大吉」を紹介したいと思います。

(動画開始)

 ミックス犬という人気の犬種同士をかけあわせて生まれた新たな犬なのです。これは、母親がミニチュアシュナウザー、父親がトイプードル。

(動画終了)

それだけのことですけれども、ちょうど2月8日で2歳になったところです。そして、最近我が家にも孫が生まれこれがツーショットの写真です。後ほどまた出てくるのでよろしくお願いします。

高齢者の為の運動療法

 私生活はさておいて、

先ほど言ったように、膝と腰について少しお話ししたいと思います。膝については、先ほど運動不足があると内側の筋肉が衰えるめにバランスが悪くなり変形性膝関節症になり易いといいましたが、内側の筋肉を鍛えると予防できます。それにはスクワットが非常に良い運動です。スクワットというのはしゃがみ込んで伸び上がる運動です。腰にもいいのでまた後からビデオで説明します。

 もう一つはふくらはぎで、これも膝を支える役割があります。これを鍛えるにはこうやってつま先立ちで背伸びを、片足でやったり、両足で背伸びをしたりと、簡単に日常で出来ます。もう一つ大事なのは、下肢挙上筋を鍛えることです。大腰筋は加齢で衰え易く、下肢の引きずり、すり足歩行でつまずく、転びやすいなどにつながるわけです。歩くときにしっかり足を挙げたり、自転車とか水中歩行なども適切な予防運動になります。また階段を2段ずつ上がるというのもいいトレーニングでしょう。 あと、腰痛のための運動です。脊柱管狭窄症というのは、先ほど説明したように椎間板の老化が関連します。椎間板というのは血管とか神経はなく少しかたいスポンジの様なものとイメージしていただくとよいでしょう。それを若返らせるにはストレッチをして椎間板を圧縮するようにして中の代謝を高める訳です。私のように体が硬くてこれまで一度もストレッチをせずに来てしまうと椎間板も硬く老化し易くなる訳です。

 このような加齢に打ち勝つ運動はあきらめないで毎日コツコツ日常生活の中で実施して行くことが成功の秘訣です。まずできること、正しい姿勢、肥満防止、適切な運動です。肥満防止と適切な運動というのはメタボにも関係ありますが、正しい姿勢というのが非常に大事です。あと、ストレッチと筋力アップ、中高年の運動というのはこういうことに尽きると思います。ストレッチは、じっと静止状態で伸ばすということです。痛みを感じたらそこで止めますが、1つのポーズを30秒間維持。反動をつけたりしません。筋肉が伸びていく感じがなければ何処か間違っているのでフォームを再確認します。伸びた感じを確認しながらやっていくということになります。これがストレッチです。それで、腰痛にいいストレッチは、寝ながらできるので、起きたときとか寝るときに毎日実施することができます。ぐっと足を引きつける。それから、片足を持って足の先だけを曲げたり伸ばしたりする。腹筋トレでは、おへそをみるように少し頭をあげ、両足を挙上させ、手で頭を抱える姿勢を30秒間持続させます。これだけでもいい運動になります。余裕があったら、さらに足を片方ずつ上げたり下げたりします。背筋は、首を絶対反らせないでうつむいたままの姿勢で上半身を少し起こした状態を維持させます。この4つを、毎朝10分ぐらい続けると非常に腰が楽になるし、腹筋背筋力がついてくるわけです。

 先ほど言ったスクワットと、座って出来るキャットアンドキャメル( ネコとラクダ)運動の画面が出てきます。これはぜひ見ていただいて朝晩やっていただくとすごく腰の調子が良くなります……

(動画上映)

○—— 次は、腰痛の予防になるエクササイズを教えていただきたいと思います。これも座った姿勢が基本ということですね。

○—— そうですね。座った姿勢で行っていきます。

○—— 椅子トレーニングということですね。

○—— そうですね。いすを使って簡単にできますので、いすトレというふうに呼んでおります。まずは、ネコとラクダの姿勢に似ていることから、「キャットアンドキャメル」という体操なのですが、それを紹介していきたいと思います。このように腰かけを浅く腰かけていただいて、腰を一番反った状態、それから丸めた状態を繰り返していきます。反った状態と丸めた状態。

○—— これを繰り返すと。

○—— はい。それをゆっくり10回から15回ぐらい繰り返します。ただ、長い時間座っていて、既に腰に痛みがある方の場合には余り丸めずに反る方向を中心に、そして戻すときは真ん中まで戻していただくということのほうがより安全であります。

○—— 丸め過ぎないということがより安全だということです。

○—— はい。

○—— さあ、もう一つ、教えていただけますか。

○—— もう一つは、いすスクワットという体操です。スクワットというと、このように屈伸体操をするということですが、最初から屈伸体操をするわけではなく、いすから立ち上がるということを非常に大切にしております。この状態から立ち上がり、背中のS字を保っていただいてゆっくり膝に手をついて立ち上がります。

○—— 膝に手をついてゆっくり立ち上がる。

○—— 膝に手をつくことによって、まだそんなに筋力が強くない、弱い方でも安全に行うことができます。なれてきましたら、手を使わずにゆっくり立ち上がります。こうすることによって、背中の筋肉を使うことができます。そして、立ち上がるときには下腹部を締めるように意識していただきます。

○—— このお腹のところですね。

○—— さらに、太股の筋肉の練習にもなります。

○—— そうしますと、背中、お腹のところ、そして太股の筋肉がこれで鍛えられるということです。

○—— はい、そうです。それで、さらに余裕がある人は、立った姿勢から座らずに途中までしゃがむというスクワットを1日に何回か繰り返す。

○—— これ、膝に痛みがある人は、余り深く曲げないで、途中まで痛みのない範囲でやっていただけたらと思います。

(動画終了)

○山之内 ということで、この2つの運動です。これがすべて、本当にこれだけで十分効果があると思うんですね。先ほどスクワットは膝にもいいし、腰にもいい。それから、 自分の経験ですが キャットアンドキャメルは本当に効果的です。私はお風呂で、寝る前にこれをします。 

私の減量記録

ここからは私事で申し訳ありませんが、平成15年9月、愛知医大を退職したとき体重が70kgでした。大学では不規則な生活が続き、食事時間もまちまちで食べる内容も脂っこくてむちゃくちゃ食べてました。退職して4カ月後に講演依頼がありました。メタボの講演です。そこで減量成功した自分の写真をお見せしなくてはと崖っぷちにたたされたような気分でダイエットに励みました。そういう動機づけで自転車と食事制限で4カ月後には64kgまでの減量に成功しました。その後、ずーと今まで継続していましたが、2年前に大吉君が我が家に来たために自転車運動を止め大吉との散歩1時間に変更したのです。運動量はさほどあるとは思いませんが、雨以外は必ず朝5時に散歩にでかけ、その前後でストレッチ、筋トレ、ラジオ体操をしています。また医大にいたときより胃が小さくなったというか食べ癖がなくなり、このお正月も一応63kgを維持できました。

私の腰痛解消の日々

 実は、もう一つ私事ですが、4年前から腰痛がひどくて悩んでおりました。私は開業ではなく糖尿病専門医としてあちこちの医院病院で契約医をしております。その為、7カ所9外来、垂井から半田、豊田、各務原と病院を回り車の移動が週に500キロ、外来時間が週35時間になります。このような生活になり3年目に、腰痛が出現しました。これは私のホームページの一文ですが「何しろ朝起きて、Mac(コンピューター)の前に座ることもできず、、」とか、「車をおりる時に腰が痛くてかがみながら降りた」と言うような記録が残っていました。

 色々工夫してみましたが良くならず、昨年、MRIでやっと原因がわかりました。先ほどお見せした腰の写真は実は私のものです。この部分、脊柱管を狭窄しています。そんなことがあってから私も考え方を変えて、きょうの講演でお話しさせていただいているように、有酸素運動も確かに良いのですが、それ以上にストレッチとか筋トレを重視するようになりました。ストレッチとか、先ほどお話した筋トレは寝床から起きる前に必ず10分ぐらい実施します。そして、ラジオ体操第二、これはビデオで録画して使っています。15分ぐらいかかります。それが終わってから大吉君の散歩です。大吉がいるのでとにかく散歩は絶対いく習慣がついているのです。帰ってからデスクワークをしますが、もう一つ大事なことは正しい姿勢です。最近取り入れているのは姿勢を直すためにインナーマッスルを鍛えるスポーツシャツを必ず着用します。後ろの背中の部分の弾力で胸を張った感じになります。そして腰痛防止のスポーツ用サポーターをつけて運転をします。背中にSの字を意識して運転しかなり腰痛が解消されてきています。

さいごに

 さて最後になりましたが、身体活動を保つとあらゆる年代においても死亡率が減るというデータがあります。これは Paffenbarger先生がハーバード大学卒業生16,936人の集計を報告したものです。スライドのように1週間の身体活動で使うエネルギーが2,000キロカロリー以上(大体歩行1日1時間くらいを実施)の群は、500キロカロリー(じっとして動かない)やその中間の群と比べるとあらゆる年代で死亡率が50%から20%減少するというものです。高齢になる程、差がでるので高齢者の身体活動は健康維持に非常に大切であることが示唆されます。運動や身体活動維持の努力はけっしてうそをつかないし、実施した分だけ効果がでます。だけど、どんな目的でどこまでやるか。自分で考えて続けられることを選択する。そして、強い意志で継続するということが大事ではないでしょうか。今年の私のモットーでもありますが「あきらめないで、やりつづければ、きっとできるから」を皆様にお示しして最後にしたいと思います。これは金大夫さんのカレンダーから引用させて頂きました。減量や運動療法にもぴったり当てはまると思います。本当に最後になりましたが、私のホームページ「国男の部屋」からの動画です。是非ご覧下さい。2分30秒で、題名は「謹賀新年」です。

(動画上映)

(動画終了) ご清聴ありがとうございました。(拍手)

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