このページは岡崎医師会主催 第15回糖尿病勉強会での講演の提出原稿です。

 

岡崎市医師会館 2.29 2008

 「外来で出来るインスリン導入法」

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外来インスリン療法

外来で出来るインスリン療法

      山之内糖尿病予防研究所クリニカルデスク 山之内国男

 

はじめに:

 インスリン治療は1型糖尿病以外に2型糖尿病においても、きわめて血糖コントロールが乱れてしまった場合やSU薬が徐々に効かなくなりHbA1cが高値となり目標値に戻らなくなってしまった場合などで確実で有効な治療法として確立されている。その際、入院での導入は簡単だが、なかなか時間的な余裕もなく、多くの患者はこれを拒否する。しかしながら外来でのインスリン導入はそれほど困難なことではない。さらに入院に比して退院後の日常生活での再調節も不要であるし、入院費も節約できる利点がある。そこで私が実施している外来でのインスリン導入法について紹介したい。

 

インスリン抵抗性とインスリン分泌能(図1):

 最終的な治療法(維持療法)を考えるときこれらの関係を念頭に置く必要がある。インスリン抵抗性は肥満度と密接な相関があり、肥満度が大となるほどインスリン抵抗性も大となり痩せてくるに従いインスリン分泌能が低下してくるのが一般的である。従って肥満度が大きくなるほど減量によるインスリン抵抗性の是正が治療の中心となり食事&運動療法、生活習慣の改善に努めることが重要である。逆に痩せてくるほどSU薬やインスリンの適応となりやすい。

 

糖不応性と糖毒性(狭義)(表1): 

 高血糖で引き起こされるインスリン分泌に対する障害として大きく2つに分類できる。ブドウ糖毒性(不応性)と 狭義のブドウ糖毒性である。前者は24時間以内の高血糖で簡単に発生するが、障害部位が主にグルコースに応答するインスリン分泌の部分に限られるため、高血糖を是正することにより比較的に容易に回復する。臨床的には食後過血糖、あるいは空腹時血糖が少し高いIGTから初期の2型で認められる。この場合でも、きわめてコントロールが悪化した場合は一時的インスリン治療の適応となる。 一方、狭義のブドウ糖毒性は長期間の慢性高血糖により徐々に進行しβ細胞数の減少とランゲルハンス島の繊維化を起こし、その特徴は進行性、一部不可逆的性のインスリン分泌障害となる。インスリンあるいはインスリン分泌を促す治療(グリメピリドをふくめたSU薬の併用)でまず持続する高血糖を是正する必要がある。血糖コントロールが安定した後、本来の薬物療法(維持療法)を検討する。

 

インスリン治療法の選択と自己血糖測定(図2):

1. 超速効型インスリン3回うち(私は自己血糖測定もインスリン開始と同時に指導する):

 きわめて血糖コントロールが不良の場合、上述した糖毒性が存在する。図に示すようにまず糖毒性をとるのに適した方法は超速効型インスリンの3回うちであろう。初めてインスリンを使用する場合は特に、この方法はわかりやすくインスリン作用持続時間が短いので低血糖を引き起こす率も少ない。この際、私は自己血糖測定もインスリン開始と同時に指導する。これにより患者さんに低血糖の不安も軽減できるしインスリン単位の調整も行える。患者さんはインスリンを実施するために特に血糖測定は疑問を持たずに受け入れてくれる。肥満があるほどインスリン抵抗性が高く、初めのインスリン開始単位数をより多くする。 1-2日で食前血糖が高値を示しても、確実に口渇や夜間尿などの症状が軽減あるいは消失する。 1週間ほど経過し慣れてきたところで朝食前の血糖が200以上続くなら持続型インスリンを併用する。FBSを見ながら持続型インスリンの増減を指導する。血糖改善とともにインスリンを漸減あるいは中止していく。本来の継続治療に切り替える。

2. SU薬使用中徐々に血糖コントロールが悪化してきた場合:

 SU薬治療中ついに効果が消失し、インスリン分泌能が極度に低下してきたと考えられる場合、たいてい多くの患者さんがインスリンへの切り替えに抵抗を示す。この場合は混合型インスリンの1回注射から開始するとよい。私は朝よりも夕方に基礎分泌と夕食の追加分泌を同時に補う目的でミックス製剤を使うことが多い。 夜間は生活パターンも日中より安定しているし、また朝食前の血糖値測定によりインスリン単位数を調整し、比較的安全に導入できる。その後日中の血糖ガ高値続くなら朝にもミックス製剤を追加する。もし内因性インスリン分泌の期待できる患者さんでSUのグリベンクラミド使用中ならばグリメピリドに変更し併用することが多い。これらの併用療法が有効であることはすでに十分認識されている。また内因性インスリン分泌は門脈に直接入るので皮下注よりも生理的であリ、皮下注のインスリン量を減らすことが出来る。

3. 責任インスリンを増減する(図3):

 インスリン調節は図に示すように責任インスリンを増減する必要がある。自己血糖測定は各食前と寝る前の最大4回までが基本となるが、インスリン量が安定したら運動後とか、食後の血糖がどの程度かも測定回数の範囲内でチェックするよう指導する。患者さんの生活内の色々なケースでの血糖パターンを把握しておくことが大切である。たとえば夜うった持続型インスリンが必ずしも24時間以上作用持続がない場合、翌日夕方不可解な血糖上昇が認められることがある。その場合昼の超速効型インスリンの不足かどうか除外するために昼食後2時間前後での血糖をチェックする必要が生ずるであろう(図4)。

4. 生活パターンからの治療法選択:

 やむを得ない持続型1回療法として訪問看護や介護者の都合による社会的要因がある。食事時間が規則的で朝夕食事が10時間以内ならば混合型2回うち、また生活が不規則で食事時間が大きく変動するような場合は基礎・追加インスリン療法の適応となろう。

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図1

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図3

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図2

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